セイレンチュウ..

二度寝

起きたら16時でした。二度寝してました。見た夢が面白かったので忘れないうちに出来るだけありのままを書いていきます。

 

二度寝

 

奇声を発した人間を乗せて、目の前を自転車が通過していく。
乗っているのは高校のときの友人だ。なんだか懐かしい。
それをパシャりと一眼レフで彼が撮る。こいつは誰だっけ。背が高くて顔が小さくてイケメンだ。どこかで見たことがあると感じるのは、多分高校で、とかじゃなくテレビの中でだろう。


なんでかわからないけど、今僕たちはひとりひとり坂を自転車で下ってスピードに乗ったところを彼が写真に収めるということをやっている。5、6人くらいの集団。飲み会の帰りのようなテンションだ。実際、今は朝の4時ごろっぽい。周囲に人気はなく、気づいたら明るくなり始めていた空の薄青がとても綺麗だ。昨日は雨が降っていたのだろうか、少しもやが立ち込めている。

 

また一人、高校時代の別の友人が自転車で駆け下りていき、それを彼が写真に撮る。みんな面白いポーズを決めて写真に写っており、そのたびに坂の下で待機している仲間たちで盛り上がる。僕も口元で笑いを作っておく。と同時に、盛り上がり具合が騒音レベルだったので、周りの民家に迷惑をかけていないか神経をすり減らす。ここは住宅街のようだ。見たことあるな、この景色。そうだ、明大前駅から少し歩いたあたりの世田谷の住宅街によく似ている。


なんでこんなことをしているんだろう。やがて自転車で下る謎作業が1巡した。
「次は坂を走って駆け下りてきて」と彼が言った。みんなそれに従って同じように順番に坂を走り降りてくる。坂のちょうど下りきったあたりに構えて横からランナーの写真を撮る彼。そこで気づいた。僕はまだ自転車でも走ってでも写真に撮られていない。
「ああ、そうだ、忘れてた。君は最後にまとめて僕と撮りあいっこをしよう。それまでは僕がカメラマンをやるからね」
僕の疑問に気づいたように彼が言う。僕は納得する。
みんな元気に走り降りてくる。よくこんな早朝から走り回れるものだ。やがてそれも一巡して終わった。


「次はね、坂の上の小屋の中にある好きなアイテムを一つ持ってきて。それと一緒に撮るよ」
また彼が指示をする。
「そのアイテムは一生君たちのものになるんだ」
一生、という言い方がやや気になったが、要は小屋の中のものを一つもらえるということだろう。
みんなそれぞれ持ち出して同じように坂を下って写真に写る。どんなアイテムがあるんだろうと期待して見ていたが、野球のバットとグローブだったり分厚い本だったりみんな案外普通のもので、僕は少しがっかりした。


待っているとそう時間はかからずそれもみんな撮り終わった。
「お疲れ様。あとは僕たちで撮っていくから君たちは先行ってていいよ」
と彼は言う。指示を受けて高校時代の友人たちは、待ってるからなーと道の先へ歩いていく。どこで待っているんだろうか。そういやこのあとカラオケでもいく予定だったんだっけ。
「さあ、じゃあ始めようか」
それから彼と僕は二人で同じように写真の取り合いっこをした。自転車で坂を下って1枚、走って坂を下って1枚。残るはアイテムを持って撮るだけだ。彼と坂の上まで歩いていく。そこには小屋があった。いや、部屋という方が正しいかもしれない。ドアを開けると中に立方体の無機質な白い空間が広がっていた。窓はない。隅っこにガラクタのようなものがいくつか転がっている。

この中から選べばいいのか。そう思い少し迷っていると、彼が一足先に部屋から出ようとする。
もう決めたの。なら先に写真を撮ってあげるよ、と言って彼についていこうとすると、彼は
「いや、君も決めてから出てくるんだ。僕は外で待っているから。」
と言う。

そういうものか。ところで彼は一体何のアイテムを選んだんだろう。そう思って聞いてみる。
「ああ、僕かい?そうだな…。この部屋は本当にすごくてね、一つであればなんでも持ち出せるんだ。そう、例えば時間とかも、ね」
時間?彼は何を言っているんだろう。彼が部屋を出ていこうとする。
バットとグローブを持ち出した友人は大学に行っても野球を続けている。分厚い本を持っていた彼はそういえば法学部に進学した。一生、と言った彼の言葉をふと思い出した。この部屋の中に時間があるとしたら、それはなんだろうか。いや、誰だろうか。
ハッとして僕は扉に駆け寄る。だが一足遅かった。彼は素早く扉を閉める。その瞬間、確かにガチリという嫌な音をドアノブの先で聞いた。扉を引く。開かない。開かない。鼓動が急激に早くなっていく。

 

布団の上でハッと目を開けた。今この瞬間に目を覚ますことがあらかじめ運命で決められていたかのような一瞬の目覚めだった。スマホを見る。時刻は16時、相当眠っていたみたいだ。

僕は取られた時間を惜しみつつも、自分の人生にまだ時間が残されていたことに安堵して布団から起き上がった。